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撤退の裏に潜む「戻れない理由」

失敗と撤退

シャオミの韓国戦略、何が壁になったのか

中国のスマートフォン大手、シャオミの韓国市場戦略が行き詰まっています。2021年に現地法人を設立し、低価格を武器に攻勢をかけたものの、販売代理店であるスピッツモバイルが撤退。エコシステム構築の壁に直面していると報じられています。

シャオミの戦略は、スマートフォンだけでなく、家電やライフスタイル製品を連携させる「エコシステム」で顧客を囲い込むこと。ところが、韓国市場ではこのエコシステムが十分に機能せず、単なる端末販売の競争に陥りました。

このニュースから中小企業経営者が学べることは何でしょうか。大企業の事例と捉えるのではなく、「戻れる経営」の視点で読み解いてみたいと思います。

エコシステム戦略に潜む「戻れない罠」

シャオミのケースで注目すべきは、エコシステム戦略そのものの是非ではなく、「撤退のしづらさ」を内包していた点です。

エコシステムとは、複数の製品やサービスを連携させることで顧客の離脱を防ぐ戦略。一見すると強固なビジネスモデルに見えますが、裏を返せば「一つの歯車を外すと全体が崩れる」脆弱性も抱えています。

シャオミは韓国市場で、スマートフォン販売のために代理店と契約し、エコシステムを構成する各製品の供給網を整えました。しかし、スマートフォンの販売が伸び悩むと、エコシステム全体の維持コストが重くのしかかります。撤退判断を下す際に、個別の契約解除や在庫処分だけでなく、エコシステム全体の解消という複雑な手続きが必要になるのです。

これは中小企業の多角化戦略にも通じます。複数の事業を連携させて相乗効果を狙うのは有効ですが、その「連携の複雑さ」が撤退のハードルを上げる要因になり得ます。

「戻れる線」を引かなかった結果

シャオミは韓国市場への参入時に、どのような撤退条件を設定していたのでしょうか。おそらく、スマートフォンの販売台数や市場シェアなどの目標はあったでしょう。しかし、エコシステム全体としての「戻れる線」は引かれていなかった可能性が高い。

「戻れる線」とは、この条件を下回ったら事業を畳む、という明確な基準です。この線を引かないまま投資を続けると、損失が拡大しても「もう少しで軌道に乗る」という希望的観測で撤退を先延ばしにしてしまいます。

シャオミの韓国戦略は、エコシステムという「戻れない構造」を最初から作り込んでしまった事例と言えるでしょう。

中小企業こそ「可逆性」を設計に組み込め

では、中小企業経営者はどうすれば良いのか。答えはシンプルです。事業を始める段階で「どこまで戻れるのか」を設計に組み込むことです。

具体的には、以下の3点を事前に決めておくことをお勧めします。

撤退条件を先に決める

「売上が目標の80%を下回ったら撤退」「3年連続で赤字なら撤退」など、数字で明確な撤退条件を設定します。感情ではなく、事前に決めたルールに従って判断できるようにするのです。

私が支援したあるIT企業は、新規事業を始める際に「初年度の月間顧客獲得数が50件を下回ったら撤退」と取締役会で決議しました。結果的に目標を達成できず、損失が拡大する前に撤退。そのリソースを既存事業の強化に振り向け、全体の業績は向上しました。

投資規模を段階的にする

いきなり大きな投資をするのではなく、小さな実験から始める。シャオミのように一気にエコシステムを構築しようとするのではなく、まずは単一製品で市場の反応を見る。その上で、手応えがあれば徐々に投資を拡大する。

この「段階的投資」こそ、戻れる経営の基本です。一度に大きく投資すると、撤退の心理的ハードルが上がり、判断が遅れます。

契約に「解約条項」を入れる

代理店契約や販売委託契約を結ぶ際は、必ず「一定の条件で解約できる条項」を入れておく。シャオミのケースでは、スピッツモバイルとの契約にどのような条項があったかは不明ですが、もし解約が容易でない契約だったとすれば、撤退判断はさらに難しくなります。

中小企業の場合、大手企業との契約で不利な条件を飲まされがちですが、解約条項は交渉の最重要項目の一つです。「この事業がうまくいかなかった場合、どうやって撤退するのか」を常に考えておくことが重要です。

撤退を「敗北」と捉えない文化

最後に、経営者自身のマインドセットについて触れておきます。

シャオミの韓国撤退は、メディアでは「失敗」と報じられるでしょう。しかし、本当の失敗は「撤退すべき時に撤退できないこと」です。

撤退を「敗北」と捉える文化が組織に根付いていると、誰も撤退を提案できなくなります。すると、損失は雪だるま式に膨らみ、最終的には会社全体を危険にさらすことになります。

私自身、コロナ禍で不採算事業の売却を経験しました。当時は「撤退=敗北」という空気が社内にあり、決断までに多くの時間を要しました。しかし、売却後に残ったリソースをコア事業に集中投下したことで、会社はV字回復を果たしました。

撤退とは「選択と集中」の一環であり、次の成長のための戦略的な判断です。「戻れる経営」とは、失敗をしない経営ではなく、失敗から確実に戻れる経営のこと。シャオミの事例を、自社の戦略を見直すきっかけにしていただければ幸いです。

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