重要ポジションを固定化せず、責任範囲だけを先に決める組織設計
事業が拡大し、意思決定の数が増えてくると、経営者は「このポジションを正式に置くべきではないか」と考えがちです。しかし、役職を置いた瞬間に組織が動かなくなるケースも少なくありません。
「役職を置かないと回らない」は本当か?
部長、責任者、リーダー。役職を置くことで組織が安定し、判断がスムーズになるように見えます。しかし実際には、役職を置いた瞬間に、組織が動かなくなるケースも少なくありません。
固定化されるのは「肩書き」ではなく「判断の帰属」です。役職を与えた瞬間から、周囲は「その人が決めるもの」と考え、経営者は無意識に口出しを控え、判断の修正が人事問題にすり替わります。

判断が検証されない構造
役職固定化により、判断の修正が困難になり、組織の柔軟性が失われます。
固定されるのは「判断の帰属構造」
誰が決める人なのか
意思決定の権限者が明確化され、周囲の期待が固定されます。
どこまで責任を負うのか
責任範囲が役職と一体化し、柔軟な調整が困難になります。
誰の判断だったのか
問題発生時の帰属先が固定され、検証の機会が失われます。
重要ポジションを固定化するとき、経営者が本当に固定しているのは役職ではありません。固定されるのは、この判断の帰属構造なのです。
なぜ「責任範囲だけを先に決める」のか
ここでのポイントは、判断権限を丸ごと渡さないことではありません。重要なのは、責任の境界線だけを先に引くことです。
どこまでがその人の責任か
明確な範囲設定により、判断の自由度と制約が明確になります。
どこからは経営判断に戻すのか
エスカレーションの基準を事前に定義します。
何が起きたら必ず相談が必要か
トリガーとなる条件を具体的に設定します。
これを役職ではなく、範囲として定義します。
責任範囲設計で最低限決めるべきこと
責任範囲だけを先に決める場合、必要なのは複雑な組織図ではありません。最低限、次の4点を言語化します。
01
扱ってよいテーマ
日常判断と例外対応の範囲を明確化します。
02
金額・影響の上限
この範囲までは単独判断可能、超えたら必ず経営判断に戻します。
03
報告・相談のトリガー
数値悪化や想定外事象が発生した際の対応ルールを設定します。
04
責任の終了条件
期間や評価タイミングを事前に定義します。
役職名は、このあとでも付けられます。
固定化しないことで見えてくること
責任範囲だけを先に決めると、次のことが自然に明らかになります。
  • 実は判断頻度が低い
  • 個人よりプロセスの問題だった
  • 想定以上に経営判断が残っている
多くの場合、「役職が必要だと思い込んでいただけ」という事実に気づきます。
よくある誤解を解く
誤解①:権限が弱くなる
責任範囲を明確にすると、権限が弱くなるどころか、迷いが減ります。何を決めてよくて、何を戻せばよいかが明確だからです。
誤解②:人は動かない
役職がなくても、責任・判断範囲・相談ルールが明確であれば、業務は十分に回ります。動かない原因は、肩書き不足ではなく、境界線の曖昧さです。
それでも役職を置くなら
責任範囲を先に決めたあとであれば、役職付与の意味は変わります。この状態での役職設計は、固定化ではなく、ラベル付けに近くなります。
判断構造が見えている
戻し方が分かっている
人に期待しすぎない
最後に確認したい3つの問い
この判断で、最後に確認したい問いがあります。
1
この役職は、本当に今ないと困るか?
緊急性と必要性を冷静に見極めます。
2
固定しなくても、責任範囲で観測できないか?
柔軟な構造で対応可能かを検討します。
3
判断が誤ったとき、誰が修正する構造か?
修正可能性を組織設計に組み込みます。
これらに答えられない場合、役職を急ぐ理由は弱いと言えます。
まとめ:後から考え直せる構造を
役職は、判断の帰属を一気に固定する
固定化により、柔軟性が失われるリスクがあります。
責任範囲設計は、判断を引き戻す余地を残す
修正可能な構造を維持できます。
人ではなく、境界線から決める
個人依存ではなく、システムとして機能します。
どちらを選ぶかではなく、その判断は、後から考え直せる構造になっているか—それだけを確認するための設計です。