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判断パターン20|心理的コストか、実質コストか
解約、撤退、修正、縮小。合理性では見直した方が良さそうだと分かっていても、「今さら引き返せない」「ここまでやってきたのに」という言葉が判断を止めます。
このとき組織内で起きているのは、コストの比較ではなく、コストの種類の取り違えです。
心理的コストが判断を支配する構造
多くの判断が止まる理由は、実際の金額や工数ではありません。次のような負担が、実質コストよりも大きく感じられています。
判断を覆すことへの恥
過去の決定を否定することへの抵抗感
説明責任を負う不安
なぜ方向転換するのかを説明する負担
評価低下への恐れ
周囲からの信頼を失うことへの懸念
一貫性がないと見られる懸念
ブレていると思われることへの不安
これらは数字に表れませんが、判断に強く作用する心理的コストとして存在します。
実質コストが見えなくなる瞬間
心理的コストが前面に出ると、次のようなことが起きやすくなります。
毎月発生している固定費が見えなくなる
使われていない工数が放置される
将来の機会損失が評価されない
結果として、支払い続けている実質コストより、今ここで決め直す心理的コストが重く扱われるという逆転が起きます。
なぜ心理的コストは過大評価されるのか
心理的コストが膨らむ背景には、次の構造があります。
1
判断が「決定」として扱われる
実験ではなく、最終的な決定として認識されている
2
撤退条件が未定義
どの時点で見直すべきかが事前に決まっていない
3
失敗と責任の直結
失敗が評価や責任と直接結びついている
この場合、修正は合理的判断ではなく、過去の否定として受け取られるため、心理的負担が増幅されます。
心理的コストが不可逆性を生むポイント
次の条件が揃うと、心理的コストは判断を固定化します。
判断理由が言語化されていない
なぜその判断をしたのかが明確に記録されていない状態です。
数字ではなく空気で是非が決まる
データや根拠ではなく、雰囲気や感覚で判断されています。
見直しが「例外対応」になっている
通常のプロセスではなく、特別な対応として扱われます。
この状態では、判断はコスト比較ではなく、感情の回避行動として行われます。
実質コストとして扱われる判断の特徴
一方で、心理的コストに引きずられにくい判断には、共通した前提があります。
01
判断は仮置きとして扱われている
最終決定ではなく、現時点での最善策として位置づけられています。
02
見直しは更新として想定されている
状況の変化に応じた調整が、当然のプロセスとして組み込まれています。
03
撤退・修正がプロセスに組み込まれている
方向転換が失敗ではなく、学習の一部として認識されています。
この場合、恥や体裁は判断材料になりにくく、実際に失われるものが何かに意識が向きます。
コストを切り分けて考える視点
実質コスト
今後も発生し続ける実質コストは何か。固定費、工数、機会損失など、継続的に支払われるコストを明確にします。
心理的コスト
今この瞬間にだけ発生する心理的コストは何か。恥、不安、評価への懸念など、一時的な感情的負担を特定します。
これが分離されていない場合、判断は経済合理性ではなく、感情の回避として行われます。
判断を考え直すための問い
今回避けているのは、どのコストか
実質的な損失なのか、心理的な負担なのかを明確にします。
それは今後も発生し続けるものか
一時的なコストなのか、継続的なコストなのかを見極めます。
心理的コストがなければ、同じ判断をするか
感情を除外した場合の合理的な選択を考えます。
判断を実験として扱えているか
仮説検証のプロセスとして位置づけられているかを確認します。
混同された判断構造の問題
これらの問いに答えられない場合、問題はコストの大小ではありません。心理的コストと実質コストが混同された判断構造にある可能性が高いのです。
1
認識
コストの種類を区別する
2
分離
心理的要素と実質的要素を切り分ける
3
評価
それぞれのコストを適切に測定する
4
判断
実質コストに基づいて決定する
判断の質を高めるために
組織の判断品質を向上させるには、心理的コストと実質コストを明確に区別する文化が必要です。
判断を「実験」として扱い、見直しを「更新」として位置づけることで、感情的な回避行動ではなく、合理的な意思決定が可能になります。
撤退条件を事前に定義し、判断理由を言語化することで、心理的コストの過大評価を防ぎ、実質的な価値に基づいた選択ができるようになります。