一時的混乱を許容できる組織の条件
新しい仕組みを導入する。進め方を変える。役割や判断ルートを見直す。こうした局面で、必ず出てくる懸念があります。
この判断が問題になる場面
組織変革の局面では、次のような懸念が必ず浮上します。現場が混乱するのではないか。一度崩すと、収拾がつかなくなる。今は安定しているのだから、触らない方がいい。
現場の混乱
新しい仕組みが導入されることで、現場が混乱するのではないかという懸念
収拾不能
一度崩すと、収拾がつかなくなるという恐れ
現状維持
今は安定しているのだから、触らない方がいいという判断

このとき多くの組織では、混乱を避けること自体が目的化するという状態に入りやすくなります。
「混乱=悪」と捉えた瞬間に起きること
混乱を一切許容しない姿勢が強まると、組織には特定の現象が起きやすくなります。進め方を変えられない、問題が顕在化する前に議論が止まる、表面上は安定しているが実態は見えない状態になります。
1
変更不可
進め方を変えられない状態に陥る
2
議論停止
問題が顕在化する前に議論が止まる
3
見えない実態
表面上は安定しているが、実態は見えない
この状態では、問題は解決されているのではなく、露出していないだけという可能性が高いのです。
混乱が発生する本当の理由
一時的な混乱が起きる理由は、必ずしも「進め方が悪い」からではありません。多くの場合、次のような構造が関係しています。
  • 判断基準が暗黙知のまま運用されている
  • 属人的な調整でバランスが保たれている
  • 例外処理が積み重なっている

そこに変更が入ることで、今まで見えなかったズレや、誰が何を判断していたのかが表に出てきます。混乱とは、構造が可視化された結果でもあるのです。
混乱を許容できない組織の特徴
一時的混乱を過度に恐れる組織には、共通した特徴があります。これらの特徴が揃うと、混乱は問題発見のプロセスではなく、組織評価を下げる事象として扱われてしまいます。
責任者の曖昧さ
判断の責任者が曖昧で、誰が最終決定を下すのか不明確な状態
失敗の烙印
修正や撤回が「失敗」と見なされ、柔軟な対応が困難になる
現場依存の判断
現場の声がそのまま是非判断になり、構造的な視点が欠如する
一時的混乱を許容できる組織で起きていること
一方で、混乱が起きても致命傷にならない組織も存在します。それらの組織では、次の点が比較的整理されています。
01
試行と確定の区別
何が試行で、何が確定事項かが明確に分かれている
02
影響範囲の限定
混乱が起きる範囲と影響範囲が限定されている
03
観測点の共有
混乱が起きたときに、どこを見るかが共有されている

ここで重要なのは、混乱を歓迎しているわけではないという点です。混乱を制御可能な現象として扱っているだけなのです。
混乱が不可逆になるポイント
一時的混乱が致命傷になるかどうかは、混乱そのものではなく、次の要素に左右されます。これらが揃うと、混乱は学習ではなく、崩壊に近づきます。
  • 人が固定されているか
  • 契約や権限が先に固まっているか
  • 「戻す」という選択肢が最初から排除されているか
1
人材の固定化
柔軟な配置転換ができない状態
2
契約の硬直化
変更が困難な契約や権限構造
3
選択肢の排除
後戻りできない前提での推進
混乱を制御可能にする設計
混乱を扱える組織とそうでない組織の違いは、混乱そのものへの態度ではなく、混乱を扱う設計の有無にあります。
範囲の明確化
影響範囲を事前に特定し、限定する
観測指標
何を見て判断するかを事前に定める
修正の余地
戻す選択肢を常に保持する
責任の所在
判断責任者を明確にする
この判断を考え直すための問い
混乱を許容すべきかどうかを判断する前に、次の問いに答えられるかを確認することが重要です。これらに答えられない場合、問題は混乱そのものではなく、混乱を扱う設計が存在しないことにある可能性が高いのです。
1
混乱の発生場所
今回想定している混乱は、どこで起きるものでしょうか
2
混乱の性質
その混乱は、構造の露出なのか、運用ミスなのでしょうか
3
判断の基準
混乱が起きたとき、何を見て判断を修正するのでしょうか
4
撤退の可能性
どこまでなら戻せる前提になっているでしょうか
混乱を学習機会に変える組織へ
一時的混乱を許容できる組織とは、混乱を歓迎する組織ではありません。混乱を制御可能な現象として扱い、そこから学習する仕組みを持つ組織です。
混乱を避けることが目的化すると、問題は解決されず、ただ見えなくなるだけです。一方で、混乱を扱う設計があれば、それは構造を可視化し、組織を進化させる機会となります。
重要なのは、混乱そのものではなく、混乱をどう扱うかという設計の有無なのです。
混乱は終わりではなく、新しい始まりへの通過点です。