権限を渡すか、限定するか
人が増え、業務が分かれ始めると、経営者の頭に必ず浮かぶ問いがあります。「そろそろ権限を渡すべきではないか」。この問いは一見前向きに見えますが、判断を誤ると組織は自走するどころか判断不能な状態に陥ります。
権限委譲の本質
よくある期待
  • ボトルネックを解消したい
  • 現場のスピードを上げたい
  • 自分が全部決める状態から抜けたい
実際に起きること
権限を渡すという判断は、単に「決めていい範囲」を増やすことではありません。その瞬間に固定されるのは、誰が決める人なのか、失敗したとき誰の判断だったのか、という責任と説明の構造です。
権限を渡した瞬間に固定されるもの
決定者の明確化
誰が決める人なのか
責任の所在
失敗したとき、誰の判断だったのか
範囲の定義
どこまでが任せた範囲なのか

この構造が曖昧なまま権限を渡すと、結果だけが問題にされ、判断プロセスが検証されず、修正ができなくなります。つまり、権限委譲は判断を固定化する行為でもあるのです。
真の分岐点
ここでの分岐点は、権限を渡すか渡さないかではありません。どの判断を、どこまで渡すかを定義できているかどうかです。
1
失敗パターン
曖昧な期待のまま包括的に任せてしまう
2
成功への道
判断範囲を明確に定義して渡す
権限を限定するという設計
権限を限定するとは、信頼していないという意味ではありません。それは、判断を検証可能な形で渡すという設計です。
01
判断できるテーマ
どの領域で決定権を持つのか
02
判断できる金額・影響範囲
どこまでの規模を扱えるのか
03
必ず相談が必要なトリガー
どの時点でエスカレーションするのか
これを決めることで、任された側は迷わず判断でき、経営者は結果ではなく判断を見られる状態が生まれます。
権限を先に渡したときに起きること
判断基準のブレ
判断基準が人によって変わり、組織全体の一貫性が失われます。
責任の押し付け合い
失敗の責任を押し付け合い、建設的な改善が進みません。
介入の困難化
経営が後から介入しづらくなり、軌道修正が遅れます。
これは現場の問題ではありません。権限の渡し方を設計しなかった組織側の問題です。
権限を限定して渡すと見えてくるもの
限定した形で権限を渡すと、次のことが自然に見えてきます。
  • どの判断が現場で完結できるか
  • どの判断は経営判断に戻すべきか
  • 権限ではなく、業務設計が問題だった部分
多くの場合、権限不足ではなく、判断構造の未整理だったことが分かります。
よくある誤解
誤解①:権限を渡さないと人は育たない
人が育たない原因は、権限がないことではありません。判断基準が共有されていない、失敗が検証されないことです。限定された権限の方が、学習は速く進みます。
誤解②:細かく決めるとスピードが落ちる
曖昧なまま任せる方が、実際には判断が止まります。「これは決めていいのか」「後で怒られないか」という迷いが生まれるからです。
最後に確認したい問い
1
判断の明確化
どの判断を、誰に任せたいのか
2
検証可能性
失敗したとき、検証できる構造か
3
柔軟性の確保
権限を渡すことで、判断を固定していないか
これらに答えられない場合、まずは権限を限定する余地があります。
まとめ
固定化のリスク
権限委譲は、成長ではなく固定化を生むことがあります。
渡すべきもの
渡すべきは権限ではなく、判断範囲です。
限定の意味
限定は不信ではなく、検証可能性の確保です。
権限を渡すかどうかではなく、判断を戻せる形で渡しているか
それが、この判断パターンの核心です。